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第3回オンラインセミナーレポート
テーマ:「新たな産地形成」

概要
ハウス食品グループ本社よりスパイスバリューチェーン調達戦略部長 小坂氏、株式会社杉本商店より、代表取締役 杉本氏を講師にお招きし、高千穂郷・奥阿蘇地域において、干し椎茸生産者の農閑期を活用し、国産山椒の調達ルート確立を目指す「山椒の産地形成プロジェクト」の事例から、新たな産地を見つけるヒントをご提供いただきました。


セミナーの様子




質問へのご回答
参加者からの質問について回答させていただきます。
産地を形成することの「メリット」「デメリット」を加工段階から遡って教えてください。
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
加工段階から遡る産地形成は、短期的には負担があるものの、中長期的には安定調達・品質向上・ブランド構築・社会課題の解決を同時に実現できる手法だと考えています。
本事業では、既存作物・生産者の保有設備・農業の閑散期を活かすことで、デメリットを最小化し、メリットを最大化する設計にしたいと考え、企画運営させて頂いております。
【メリット】
① 原材料の「安定調達」と「品質の作り込み」ができる
加工・商品化を担う立場から逆算することで、結果として、商品品質の安定化・ブランド構築が可能になります。
・必要な 品種・香り・痺れ・粒度・乾燥条件 などを明確に示せる。
・栽培段階から品質基準を共有でき、ばらつきの少ない原料が確保できる。
②生産者の参入リスクを下げることができる
本事業では、参入される生産者が干し椎茸の栽培加工の閑散期を活用するため、新たな作物への挑戦が可能になります。
併せて、「苗木提供」「技術指導(産学連携)」「全量買い取り契約」をセットにしているため、生産者としては、「作っても売れない」、「投資回収できない」という不安が小さく、閑散期を活用した新たな作物への挑戦が可能になります。
③ バリューチェーン全体の付加価値最大化
加工・販売まで見据えているため、「産地のストーリー性」「研究データに基づく差別化」「他産地との差別化(風味・ブランド)」を一気通貫で設計でき、バリューチェーン全体で価値を積み上げることができると考えています。
④ 社会課題と事業成長の両立
「国産スパイスの継承(保全と拡大)」や、「生産者高齢化・農閑期問題への対応」、「農業分野の担い手創出」、「地域経済への波及」といった社会課題を、事業として持続可能な形で解決できる点が挙げられます。
【デメリット】
① 事業者の初期段階の関与コストが高い
加工側が主導するため、「苗木供給」、「営農指導」、「研究・データ蓄積」、「関係者との調整」など、時間・人材・コストの先行投資が必要になります。
今回は、3事業者+1大学+生産者というタッグが組めたため、必要なピースが揃ったケースだと考えます。
② 天候・病害・地域特性リスクを直接受ける
産地形成に深く関与することで、「台風や気候変動」、「生育不良」、「想定通りの収量・品質にならない」、といった一次産業特有のリスクを、加工側も一定程度負うことになります。
③ 生産者の自立性・多様性への配慮が必要
品質基準や栽培方法を一定程度統一するため、「生産者の自由度が下がる」、「作らされている」という意識が生じる可能性があり、対話と信頼関係構築が欠かせないと考えます。
杉本商店 杉本様回答
生産現場の方から見ると、大きなメリットは出口がはっきりしているという点に尽きます。
デメリットとしては、安心感がある一方で、やらされている感があるため、生産現場の本気度を上げていくことに時間を要する可能性もある点です。また、年齢を重ねることや環境変化によって体調が優れなくなり、途中で離脱してしまうという話もゼロではありませんので、それも踏まえた上で事業規模の設計というのを我々運営側が時間を割いていかなければならないという点も挙げられます。
2027年の本格販売に向けて、ブランド化への取り組みについて、特に食文化の観点から教えてください。
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
ブランド化の基本的な考え方として、私たちは、「山椒を原料として確保する」だけでなく、日本の食文化を次世代につなぐ“JAPANESE SPICE”としての価値をどう伝えるかを重視しています。そのため、ブランド化は単なるネーミングではなく、「日本食文化の保全と拡大」、「地域の魅力発信」、「農業分野の担い手創出」 を含めてブランド設計していきたいと考えております。
杉本商店 杉本様回答
宮崎県にはもともと山椒のことを謳った民謡があり、山椒はもともと食文化の一つとしてあるものです。こうした文化が今途絶え気味になっており、それを掘り起こすことによって昔からある文化を次の世代に繋いでいくということは、ブランドの一番の芯の部分として、あるべき姿と感じています。
近年多発する自然災害などに対して、産地や企業として備えていることはありますか? 原材料の安定調達に向けて、供給が途絶えた場合など、緊急時の対策をどのように考えていますか?
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
■基本的な考え方
私たちは、災害リスクを「起きてから対応するもの」ではなく、「前提条件として織り込むもの」と捉え、産地と企業・大学が一体となった “分散型・多層型”の備えを志向していきたいと考えております。激甚化する災害に対しては、「分散」・「標準化」・「連携」をキーワードに、“運命共同体”として備えることがより重要だと考えています。この取り組み自体が、持続可能な国産スパイスを次世代につなぐ基盤になることに期待しています。
■具体的な取り組み
① 産地・生産の分散化
単一農家・単一圃場に依存しないよう、複数生産者での栽培体制を構築していきます。地域としては、今後は高千穂郷および奥阿蘇の2地域へ横展開し調達リスクの分散を進めています。
② 栽培技術の標準化とデータ蓄積
産学連携により、植え付け・剪定・施肥・収穫の体系化を推進していきます。気象条件や生育データを蓄積し、不作時の早期兆候把握や対策立案につなげたい考えです。
③ 既存設備・人材を活かした復旧力の確保
干し椎茸の乾燥設備の転用など、地域に既にある設備の活用を推進します。特定施設に依存しないことで、被災時の復旧スピードを高められると考えています。
④ 企業側でのBCP視点の原料調達
全量買い取り契約に加え、在庫調整や調達地域の分散に取り組んでいます。災害等で一時的に供給が滞っても、商品供給を止めない設計を行いたいと考えております。
杉本商店 杉本様回答
もともと高千穂郷は、原木栽培の椎茸農家が地域一帯に数多く点在しているようなエリアでした。この分散した産地を活かしているため、細分化されたエリアで栽培を行えています。そのため、大きな災害・集中的な災害が起こっても産地全体への影響を少なく抑えることができます。また、それぞれの農家が乾燥設備を所有しているため、万が一どこかの施設が被災しても、別の農家でリカバリーができるといった体制が整っていることが強みだと思います。
農林水産省からの補足
電力・通信・水道等の重要インフラに係る大規模な障害が発生する可能性にも備え、BCP(事業継続計画)を策定し、平常時から迅速に事業を動かせる体制を整えることが重要です。具体的には、非常用の電源や通信設備の確保、拠点や仕入先の分散などが検討の項目として挙げられます。
新たに産地を形成したきっかけ、取り組みのポイントを教えてください。
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
新規産地形成の目的
新規産地形成の目的は、単に生産量を増やすことではありません。私たちは主に次の3点を目的に据えています。
①原料の安定調達と品質確保:将来にわたり、必要な品質の原料を持続的に確保すること。
②食文化・国産原料の継承:日本固有のスパイスである山椒を、産地とともに次世代へつなぐこと。
③地域と共に成長する事業づくり:一過性の調達ではなく、地域に根づく産業として成立させること。
ポイント
新規産地形成は、原料調達戦略 × 食文化継承 × 地域共創の交点にあると考えております。その土地で無理なく続けることができ、生産者・地域・企業や大学の三者がその価値を分かち合えること。それが、私たちが新規産地形成で最も大切にしているポイントです。
杉本商店 杉本様回答
私たちの取り組みにおいて、一つの大きな鍵となるのが「多世代間交流」です。地元の高校生や大学生には「一担当者」として早い段階から取り組みに参加していただいております。現在日本の中山間地域で過疎化や高齢化が進んでいく中で、世代間の交流がないことが一因となり、地域の活力が失われているところに問題があると考えてきました。
そのため、地元の若者が、未来を見据えた新しいプロジェクトに早い段階から参画し、中山間地域まで足を伸ばして取り組みに携わっていくことが、この取組を持続可能なものにしていく上で大きなポイントになっています。
新たな産地づくりの取り組みに興味があります。苗木栽培から収穫までの労働対価、その間のモチベーション維持など、工夫されていることを教えてください。苗木は無償で生産者に提供しているのでしょうか?
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
■モチベーション維持のための工夫
①既存作物との兼業モデルの設計
生産者が主な収入源として生計を維持されている「干し椎茸」の農閑期に山椒を栽培するため、収穫開始までは無収入にならない仕組みです。(但し、山椒としての収入はありません)
②初期負担の軽減
苗木は無償提供、乾燥も既存設備を活用し、新たな投資を抑えました。
③将来像の共有
2027年の商品化、全量買い取り、地域の魅力に関する情報発信、ブランド化の方向性を共有しながら進めて参りたいと考えています。
④伴走型の技術支援
企業や大学が継続的に関わり、「産地を一緒に育てている」実感を持って頂けることを願っています。そうなれば大変幸いです。
■苗木について
無償提供をいたしました。これは、新規参入して頂ける生産者の皆様のリスクを下げ、産地形成を進めるための取り組みです。
杉本商店 杉本様回答
(Q3の回答にある)産地が分散している点は、強みである反面、生産者は「もしかしたら自分だけしか取り組んでいないのではないか」と不安になることもあると思います。そのため、孤立を防ぐために、エリアごとに剪定講習会など指導の場を設けたり、意見交換の場を設けたりすることで、関係者同士が繋がるきっかけづくりを支援しています。
ただ栽培をお願いするだけではなく、ハウス食品グループ本社・南九州大学・ヴォークストレーディングなどが手分けして定期的な訪問を行い、苗木の定着状況などを確認し、生産者との接点を増やすなどの工夫をしています。
当社でも産地形成の取り組みを進めております。どのような方法でPRを行っていますか?
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
産地連携事業の推進者としての考えですが、PRについては「派手に広く」よりも、段階と相手を絞った発信を意識しております。
PRの際に意識していることは、①無理に成果を大きく見せない、②途中経過や試行錯誤も正直に伝える、③ヒト(生産者や研究者、産地連携事業の推進者)の顔が見える発信をする、です。
その結果として、「応援したい」「一緒にやりたい」という共感や共鳴の声が自然と集まることに期待し、それが次の連携や拡がりにつながっていくと信じております。産地形成のPRは、スピードよりタイミング、そして、信頼の積み重ねが何より一番の近道だと感じています。
■周知や情報発信の方法
① まずは関係者向けの丁寧な共有
生産者、地域企業、大学、行政などに向けて、目的・進捗・課題を共有し、内側の共感づくりを重視しました。 これが後の発信力の土台になると考えました。
② 「商品」ではなく「取り組み」を語る
2027年の本格販売に向けて取り組んでいるところですので、「なぜ山椒なのか」、「なぜこの地域なのか」、「どんな課題に向き合っているのか」といった背景や想いを中心に発信しています。
③ 小さな発信を積み重ねる
2025年初夏が初収穫のタイミングでしたので、自治体と連携するとともにマスメディア(新聞・テレビ)への働きかけや取材対応も行い、より理解度の高い層への継続発信を重視しました。
また、企業サイト・大学サイトでも取り組み紹介としてニュースリリースし、産地側では、生産者向けの勉強会も実施しております。
④ 食・文化の文脈とつなげる
「原料調達」ではなく、国産スパイスの維持、日本食文化の継承、地域共創ということを強く意識し、共感型PRにできるよう取り組んでおります。
杉本商店 杉本様回答
単に「山椒栽培をしています」という情報発信ではなく、「産地にある課題を山椒を通じて解決しています」という内容を、一貫性を持って細かく丁寧に回数重ねて発信していくことが重要なポイントになると思います。こうした姿勢で地域のメディアに取り上げられることは、生産者のモチベーションの向上にも直結します。ブレない形で小刻みなPRを重ねていくことが大切だと思います。
なぜ、宮崎県の高千穂郷、熊本県の奥阿蘇地域の干し椎茸の生産者と連携が始まったのでしょうか?農閑期の活用以外の理由があれば教えてください。
ハウス食品グループ本社 小坂様回答
セミナーでのご説明と一部重複するため簡潔にご説明申し上げます。
持続可能な社会を考える際には、自分たちのもつ資源だけでは足りないことがあります。しかしながら、それをできない理由にせず、どうしたらできるかを考えて、組み合わせていくうちに不思議なことに絵が見えてきたのです。
産地形成に至った背景としては、各社の抱える以下の課題がございました。それぞれの課題を抱える中、2021年にヴォークストレーディングから山椒の産地化について杉本商店へご相談させて頂き、協働が始まりました。
■ハウス食品グループの課題
・山椒は産地が限られ、供給が不安定
・2018年の台風被害で山椒の収量が大幅減
・生産者の高齢化・人手不足
・気候変動で不作になるリスク
→ これらを踏まえ、持続可能な調達のために自社で産地形成を検討し、栽培地を探索開始
■杉本商店の課題
・生産者の高齢化による干し椎茸生産量の減少
・食生活の変化で国内市場縮小
・持続可能な事業運営の模索
今回の山椒産地形成の対象エリアは、九州の中央に位置する、宮崎県高千穂郷・熊本県奥阿蘇エリアです。このエリアは、現状、山椒栽培の主産地である和歌山県に近い栽培環境・気象条件でした。
また、こちらのエリアには、当社グループ企業であるヴォークストレーディングと取引関係のある椎茸問屋の「杉本商店」が事業運営をしておりました。同社は、クヌギ原木で栽培された椎茸を1954年創業以来、近隣農家より直接仕入れ、国内外へ販売し、得られた外貨を地域に還元し続けておられる企業です。
・既存の栽培・仕入れのスキームが山椒にも流用できる
・生産者の保有設備を山椒にも利用できるため生産者の初期投資が少ない
・営農に関する技術指導を産学連携で行えるため持続可能である
これらは一例ではありますが、自社だけでは解決できない課題に対する打ち手と役割分担が整い、それぞれのピースが揃ったのです。こうして、ハウス食品グループ本社、ヴォークストレーディング、杉本商店、南九州大学の 「3社&1大学」の産学連携がはじまりました。
杉本商店 杉本様回答
この取り組みは、携わってる関係者全員が、似たような危機感を持っていたということが大きかったと思います。それぞれが真剣に「どうやったらできるんだろうか?」と様々なことを模索している中で、たまたま出会い、自分たちが持っている「これは使える」「これは使えるんじゃないか?」というものを組み合わせた結果が、この連携の要因だと考えています。
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