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モデル事例紹介

スパイスの産地づくりで日本を元気に 山椒×ハウス食品グループ本社 国産山椒の安定調達に向けた
産地形成プロジェクト

日本固有の数少ないスパイス(JAPANESE SPICE)の一つである「山椒」は、独特の痺れとさわやかな香りが特徴だ。日本食には欠かせない存在として古くから愛されているが、生産者の高齢化が進み、将来的な原材料の調達が課題となっている。
干し椎茸生産者の農閑期を活用した兼業モデルを通じて、国産山椒の調達ルート確立を目指すハウス食品グループ本社の「産地形成プロジェクト」を取材した。

産地化までの流れ

スパイスで地域を元気に

ハウス食品グループ本社は2022年から、宮崎県高千穂郷・熊本県奥阿蘇で山椒の「産地形成プロジェクト」に取り組む。「スパイスで地方を元気にする」をキャッチフレーズに、杉本商店、南九州大学、ヴォークス・トレーディングと連携。栽培指導などそれぞれの得意分野を生かしながら、現地の干し椎茸の生産者を中心に栽培を推進する。生産者数、栽培本数も徐々に増え、今年7月には待望の初収穫を迎えた。ハウス食品グループは2027年の本格販売に向けて商品開発やブランド化を検討、地域の魅力発信や食文化の保全に貢献していく。高齢化や担い手不足に悩まされていた産地でも新たな地域振興のモデルとして期待が高まっている。

概念図

日本固有「山椒」に着目

ハウス食品グループは、2021年4月から「バリューチェーン」の構築を通じ、グループの持続的な成長と社会課題の解決を目指している。バリューチェーンとは、原材料の栽培・調達から商品の製造・出荷・販売・サービスといったビジネスの流れを「価値の連鎖」として捉えることである。各セクションでグループの持つ強みや優位性をもとに付加価値を付けて、新たなビジネスの創出や競争力強化につなげていく。その一環である「スパイス系バリューチェーン」では、山椒に着目した。山椒はうなぎの蒲焼きの薬味や七味、佃煮などさまざまな料理に広く利用されている。近年、果汁ドリンクやお酒、スイーツにも利用され国内外でニーズが広がり注目を集めている。

山椒の産地化を目指すにあたり、グループ会社で香辛料や香辛野菜に強みをもつ㈱ヴォークス・トレーディングに相談。干し椎茸の産地である宮崎県高千穂郷・熊本県奥阿蘇に白羽の矢を立てた。同地域は山椒の主産地である和歌山県と気候が似ていること、椎茸の乾燥機が実山椒の乾燥に使えることが決め手となった。

椎茸農閑期の収穫などメリット多い山椒の産地化

同地域で原木の干し椎茸を扱う専門問屋「㈱杉本商店」は産地化への協力の話を聞いたとき、最初は断ったという。宮崎県では栽培実績がなく、苗木の調達ルートもなかったためだ。周囲は山々に囲まれた中山間地域。生産者の高齢化、担い手不足が年々深刻化し、椎茸の生産維持すら難しくなっていた。それでも、ハウス食品グループ本社とヴォークス・トレーディングは説得を続け、杉本和英社長に山椒の栽培方法を記した本も送った。その中で、杉本社長の目に留まったのが椎茸の農閑期に収穫ができることだ。山椒は高単価作物で兼業により収入アップが狙えること、乾燥機をそのまま使えるなど初期投資が少ない、山椒の実は軽く、高齢者の負担が少ないことも決め手となった。また、耕作放棄地の有効活用にもつながる。宮崎県の南九州大学で山椒の栽培などを研究する前田隆昭教授にも相談し、すぐに現地に駆けつけてくれるなどの熱意を感じ、産地化に取り組むこととなった。

(株)杉本商店 代表取締役 杉本 和英 (すぎもと かずひで)
プロフィール

宮崎県高千穂町出身。アパレル等の営業職を経て、2011年に家業の杉本商店へ入社し、20年より代表取締役。21年に中小企業応援士、GFPアンバサダーに選出される。

事業内容

宮崎県高千穂郷の原木栽培椎茸を扱う専門問屋。1954年の創業以来、「生産者とともに働く」を経営理念とし、近隣の生産者約650軒が持ち込む干し椎茸をすべて買い取り、国内販売はもちろん、欧米にも輸出して市場を拡大している。近隣の福祉施設に「駒打ち」作業の一部を委託することで生産者支援や自立支援にも貢献している。

杉本商店ホームページ
URL:https://sugimoto.co/

2027年本格販売へ体制を強化

生産者の中では、山椒を栽培したことがない、所得につながるかなど不安は大きかった。杉本商店が1人1人に声をかけ説明会を開くなどして賛同者を募った。苗木はヴォークス・トレーディングから杉本商店を通じて生産者に提供。南九州大学とハウス食品グループ本社の研究部門であるアグリ素材開発部が講習会などを通じ栽培方法などを伝え、当初10名の栽培者を徐々に増やしていった。品種は「ブドウ山椒」。栽培適性を考え標高10~1,000メートルに植えた苗はいずれも順調に育ち、今年初収穫を迎えた。生育途中でまだ量は取れていないが「品質は良い」とハウス食品グループは手応えを感じている。実山椒として収穫されたものは同社が買い取る計画。2027年の本格販売に向け、生産者の所得向上につながるよう、体制を強化していく考えだ。

それぞれの強みを活かす地域活性化へのプロジェクト

現在、50人以上が栽培しており、来年には熊本県に移住した20代の新規就農者もプロジェクトに参加する。杉本商店は椎茸と山椒の2品目を組み合わせた新たな農業スタイルで地域の活性化を描く。今後、地元の高校に苗木の育成を依頼するなど地域を挙げた農業振興も検討していく。地域に移住してきた若手生産者や建設会社も新規事業として山椒栽培に関心を示すなど新たな動きも出てきた。ハウス食品グループ本社、杉本商店、南九州大学、ヴォークス・トレーディングそれぞれの強みを活かした、スパイスで地方を元気にする山椒の「産地形成プロジェクト」は、地域農業振興の新たな1歩を踏み出している。

ハウス食品グループ本社の声

干し椎茸の繁忙期は収穫期となる春・秋ですが、山椒の収穫期である夏は農閑期にあたります。収穫時期が重ならない2品目の栽培を通じた新たな兼業モデルの構築を目指していきます。2022年に植え付けた山椒の木も順調に育ち、手応えをつかんでおり、今年4月から「産地形成プロジェクト」を本格始動したことで、地域との活動の輪が徐々に広がってきています。
山椒の価値を最大限に引き出すことで日本の食文化の継承・発展、地域の魅力の発信、農業の担い手創出につなげていく考えです。

ハウス食品グループ本社株式会社
スパイスバリューチェーン調達戦略部
小坂 修(こさか おさむ)
プロフィール
1992 年 ハウス食品株式会社入社。同社工場の生産部門での品質職やグループ本社の調達部門などを担当。2023 年に関東工場の工場長に就任。現在、ハウス食品グループ本社のスパイスバリューチェーン調達戦略部長として各種活動を展開している。
事業内容

香辛・調味加工食品事業を中心に健康食品、海外食品、外食など幅広く事業を行うグループのホールディングカンパニー。「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくるグッドパートナーをめざします。」というグループ理念のもと、「食で健康」をグローバルにお届けしてまいります。

ハウス食品グループ本社コーポレートサイト: URL:https://housefoods-group.com/