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モデル事例紹介

事業者と産地が互いにWin-Winとなる連携を目指して みかん×岡本食品 業界の存続へ みかん缶詰の新たな原料調達戦略

公開日: 2025年10月30日
岡本食品㈱(愛知県名古屋市)は、2023年から静岡県遠州地区のみかん産地に従業員を派遣し収穫作業などを支援、主力である缶詰の原料に活用している。背景にあるのはみかん原料の不足だ。国内のみかん生産量は年々減少。同地域でも天候不順や労働力不足で育てたみかんを全て出荷することができず、ロスが発生していた。みかん缶詰は需要量が供給量を上回るが、原料調達は年々困難になっている。原料を安定的に確保したい企業と少しでも収益を上げたい生産者が連携、Win-Winの関係を作り上げた。

産地化までの流れ

みかん缶詰、原料確保が大きな課題に

同社の創業は1921年。国産トマトをソースに加工する事業から始まった。現在はみかんを中心に桃やトマトなど果実、野菜の缶詰や冷凍品の製造を主に行なう。原料は国産にこだわり、同社が扱う農産原料の8割以上を占める。2024年には食品安全規格「JFS-B規格」を取得、品質管理も強化する。

みかん缶詰を製造する国内企業は、ピーク時の300社以上から、現在は9社ほどにまで減少したという。同社のシェアは全国の約2割を誇る。みかんは年間約1400㌧を使用する。しかし、原料の確保が年々難しくなっているという。国産みかん缶詰は近年、需要量が供給量を上回り増産が求められる環境だが、原料不足により業界全体で供給できた量は2023年度に比べ24年度は3割以上減った。同社も原料調達には苦慮しており、JA、青果商等を通じた従来のルートは「年々、厳しさが増している」(岡本社長)と話す。農水省によると国内の2024年産みかんの収穫量は約56万㌧で前年に比べ18%減少した。生産者の減少、高齢化による労働力不足の他、夏の高温による落果なども収量減に拍車をかけている。

 

何気ない話が産地連携のきっかけ

新たな原料確保のルートを模索する中、静岡県遠州地区との連携は、「価格と収量が安定せず経営が厳しくなっている。労働力も確保できない」という生産者の声を人づてに聞いたのがきっかけ。生産者は育てたみかんを全て出荷する余裕がなく、単価の高い生食用を優先して収穫・出荷。缶詰原料として活用可能なみかんが廃棄されるケースもあった。

 

落としていたみかんがお金になる

産地を訪れた岡本食品の社員は、園地にみかんを落としている話を聞き、「もし出荷できれば、缶詰原料として活用でき生産者の収益にもつながるのではないか」と考え交流を深めた。同社工場を訪れた生産者は、缶詰に加工されているみかんを見て「この規格でも大丈夫なのか」と衝撃を受けたという。

これまで出荷しきれなかったみかんも活用できる――。同社と生産者は何度も話し合い「互いの強みや力を合わせれば、産地振興にできることがあるのではないか」と連携への一歩を踏み出した。

片道75分、従業員の1割が産地に出向く

遠州地区との産地連携の仕組みは、収穫期に従業員がみかん産地を訪れ、収穫・運搬などを支援。原料みかんを同社が買い取る仕組みだ。価格は両者に利益が出る水準で調整する。昨年は生産者や農業法人など7件の園地を訪れた。

同社の従業員数は約100人だが、1日あたり5人から10人が2週間にわたり、車で片道約75分の名古屋と遠州地区を往復した。工場繁忙期ではなく日程調整もしやすかったという。同社は新たなみかん外皮剥離装置を導入し、皮が硬かったりこれまで規格外だったりしたみかんも受け入れできるよう設備を強化した。さらに、みかんを適正な熟度になるまで管理する施設も新たに借りるなど受け入れ体制を整えた。産地連携により24年は約100㌧を確保、25年は約150㌧を目指している。生産者からも「新たな収益につながる」などと好評だという。

連携、振興の一歩へ高まる期待

岡本社長は「この取り組みをさらに広げていきたい」と意気込む。2021年からはみかんの自社グループ栽培にも取り組み、加工適性の高い品種の育成や低コストの栽培方法も試験する。同地区を含め他産地との協力、自社栽培など新方式での調達を将来的には3割程度まで拡大する考えだ。産地との連携をさらに強化し、創業以来培ってきた国産農産物の加工技術を産地振興と共に次世代につなげていく。

岡本食品㈱の声

今回の産地連携は新たな挑戦で、実際にやってみなければ分からないことが多く、コストの見積りをはじめ諸条件を作り上げていくことに苦心しました。業界の存続のためにも、この取り組みを成功させなければならないと考えています。

加工用原料の生産を広げるためには産地の実情を理解すること、生産者の方々に、「自分たちの産地でも取り組みたい」と思ってもらえるよう、加工用原料に対する理解の促進、成功事例を確立していくことが重要だと考えています。

岡本食品株式会社
代表取締役社長
岡本 嘉久(おかもと よしひさ)
プロフィール

名古屋市出身。銀行勤務を経て、2003年岡本食品株式会社に入社。事業上、原料農産物の安定調達が最大の課題であるとの認識に立ち、入社以来一貫して、契約栽培の推進、指定品種の苗木配布や産地への労働力提供等、原料産地基盤の拡大に尽力。2016年代表取締役社長。

事業内容

みかん、黄桃、トマト等、国産農産物の缶詰、レトルトパウチ、冷凍品等を製造、販売している会社。1921年創業。社会情勢の変化や原料入手難等により、同業者が急激に減少しつつある中、わが国固有の農産加工技術を次世代に受け継ぐ社会的責務を感じ、こだわりを持って国産農産物の加工を続けてきている。

岡本食品ホームページ
URL:https://www.ok-brand.co.jp